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深い沼

たまにうそをつく日記

『犬が星見た』武田百合子 読書中

このあいだ読んだ「ロシア日記」「ウズベキスタン日記」がとても面白かったので、この本に紹介されていた「犬が星見た」という本を読んでいる。

昭和44年にしたロシア旅行の話を、十年近くあとになってまとめたもの。旅をしたのが50年近く前で、文章にしたためたのが40年近く前ということなのだろうけれど、今読んでも色あせるどころか、自分自身が明るい面持ちで持って旅をしているような、そんな気分になる、とてもよい本だった。

むずかしい言葉はそう多くなく全然肩ひじ張らずにさくさく読めちゃう気軽さでありながら、情景描写が素晴らしくて行ったこともない場所なのに目に浮かぶ。

淡々とつづられる毎日の食事メニューも楽しくて、旅に出た気分になりたくて、昨日は載っているメニューをどうにか冷蔵庫の中身で再現できないかと、ホテルの朝ごはん風にあれこれ作ってみた(けど黒パンじゃなかったし所詮冷蔵庫の中身のものだから普通の朝ごはんになった)。

百合子さんの視線は、やさしくて、楽しそうで、チャーミングで、おおらかだ。他の登場人物たちも皆、昔ああこういう人がいたなあ。うちの父親にもどこか似ているかもなあなんて思えるような、昭和のひとびと。気難しいおじいさんのことを、百合子さんはけして「面倒なひとだなあ」とは書かない。面白がって、楽しそうに、程よい距離感で仲良くしている。

今の日本には寛容が足りないなんてよく言われるけれど、

なるほどこれが寛容なのだな。

 

百合子さんは今の私の視点ともかわらないような感性をしているけれど、でも戦争中戦後すぐの想い出なんかが文中に現れてきたりして、ああこの人はあの時代にも生きていた人なのだなあとはっとしたり。

ただいま3分の2読んだのだけれど、旅が終わるのがさみしくてこの続きは今以上にゆっくり丁寧に読みたいと思う。

 

ちょうど今、戦後すぐの時代に興味を持っているので

こうやって、昭和の時代に書かれた小説から、その肉声を拾うのも面白いかしれない。